血圧があがってしまう原因 はどこにあるのでしょうか?日本の高血圧患者は、全体として約4,300万人いると推定されており、日本人のおよそ3人に1人が高血圧という状況です。 もはや国民病といっても過言ではないでしょう。 高血圧を放置していると、心疾患や脳卒中を起こす可能性が高まります。
血圧があがってしまう原因
高血圧の悩みは紀元前の人にもあった
紀元前に中国で書かれた医書「黄帝内経」には、「脈が激しく触れるときが病の始まり……食塩を多く摂ると脈が激しくなる…」と記されています。
また、同時代のエジプトでも、脈の状態と脳卒中の関係が認められていたといいます。
人類と高血圧とのつきあいはずいぶん昔からあったことになりますが、血圧を上げる体内のメカニズムは非常に複雑で、いまだに完全には解明されていません。
ただ、私たちの体の中には、血圧を上げるいろいろな物質があること、逆に血圧を下げる物質もまたいろいろあることが、だんだんわかってきました。
どんなものが、どんなふうに作用しているのか、最近の研究からわかった新情報も織りまぜながら、説明することにします。
まずは、血圧が何によって決まるのか、ということから考えてみましょう。まずは、血圧が何によって決まるのか、ということから考えてみましょう。
心臓 の拍出量 と 末梢血管 の 抵抗 が二大要因
血圧を決める因子として重要なものは2つあります。1つは心臓の柏出量、もう1つは末梢血管の抵抗です。
心臓の抽出量とは、心臓が1分間に送り出す血液量のことで、心臓の1回の収縮により出される血液量と、心拍数によって決まります。
成人の場合、抽出量はほぼ4〜5 Lですが、もし何かの原因でこの量がふえると、心臓はその分よけいに働かなくてはなりません。心臓の血液を押し出す力が余分に必要となるわけで、当然ながら、血圧は上昇します。
では、 末梢血管 の抵抗はなぜ 血圧 を決める重要な因子になるのでしょうか。血管の抵抗とは、血液の流れに逆らう血管の力のことです。血液の流れに逆らう力が強くなると、血液をスムーズに流すために、圧力をよけいにかけなければならず、高い血圧が必要になるわけです。
しかも、血液の流れに逆らう力は、動脈の弾力や動脈内腔の広さによって変わってきます。動脈の弾力がなくなり、内腔が狭くなるほど、血流が妨げられることになるのです。
特に末梢血管での抵抗が問題になるのは、血管が細いと、少しの変化でも影響を強く受けるからです。その他の因子トトしては血液の粘調度(粘りけと密度)、循環血液量、大動脈の抵抗が考えられます。
血液はサラサラしているよりネバネバしているほうが流すのに圧力を必要とします。循環血液量は多くなればなるだけ血管内壁に内からかかる圧力も大きくなります。大動脈も、弾力がなくなったり、内腔が狭くなれば、やはり血液を流すのがたいへんになります。このようなわけで、これらの3つも血庄を決定する因子になりますが、重要度からいうと、心拍出量と末梢血管の抵抗の2つということになります。
次は、これらの因子が何にどのように影響されるのかを見てみましょう。
血圧の調節にかかわるさまざまな物質
心拍数や循環血液量に影響を与えているのは
最初に考えなければならないのは、心臓の収縮力や心拍数をコントロールしている中枢神経と、中枢神経の指令を伝達する交感神経です。
そして、交感神経が働くときに必要なアドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモンについても考えてみなければなりません。
腎臓の働きは、循環血液量に大きな影響を与えています。水やナトリウムの排泄が悪くなると、体の中の水分がふえ、循環血液量を増すからです。ナトリウムの摂取量が多いと、循環血液量をいっそう増加させます。カリウムは摂取過剰のナトリウムを体外へ排出させる働きがあり血圧によい影響を示しますが、腎臓の機能が低下し、腎不全が起こっているときは腎臓に負担がかかるので、避けなければなりません。
そのほか、カルシウムやマグネシウムも血圧調節に関係していますが、体内でのミネラルの作用は複雑で、完全にはわかっていません。腎臓の排泄にかかわっているホルモンには、尿量をふやす心房性ナトリウム利尿ペプチドもあれば、尿量を減少させるバゾプレッシンもあるというぐあいで、こちらの作用も単純ではありません。
末梢血管の抵抗に影響を与えるもの
交感神経と、交感神経を通じて指令を与えている中枢は、末梢血管の収縮・拡張のコントロールもしており、交感神経が働くときはアドレナリンやノルアドレナリンも使われています。
腎臓はまた、心臓に対してだけでなく、末梢血管にも影響を与えています。末梢血管を収縮させる作用のあるアンジオテンシンⅢ を働かせる際には、腎臓から分泌されるレニンという酵素が必要だからです。
末梢血管の抵抗にかかわっているホルモンには、アドレナリンやノルアドレナリンのほか、血圧を上げる作用のあるエンドセリン、血圧を下げる作用のあるカリクレインなど、いろいろあります。
プロスタグランディンも、トロンボキサA2が血圧を上げるほうに、プロスタグランディンE2やプロスタグランディンI2 が血圧を下げるほうに働くなど、血圧の調節に影響を与えています。このように、実にたくさんのものが血圧調節にかかわっています。今度はそれら1つ1つの働きがどうなっているかを見てみましょう。
血圧をコントロールする神経の働き
血圧は、心臓の収縮力や心拍数の変化、血管の収縮や拡張によって上がったり下がったりしますが、心臓や血管のこのような動きは交感神経の緊張と緩和によって起こります。そして、交感神経にこのような指令を与えているのは、延髄にある 血管運動中枢 です。
つまり、 血管運動中枢 の 指令 によって交感神経が緊張すると、心臓の収縮力が増したり血管が収縮して血圧が上がり、逆に交感神経の緊張がゆるむと心臓の収縮力も弱くなり、血管は拡張して血圧は下がるというメカニズムです。
中枢、末梢神経の連携プレーによって、血圧はコントロールされているのです。
体の末端でのこの変化をキャッチし、それを血管運動中枢にフィードバックする経路もあります。
圧受容体から延髄の 孤束核 、血管運動中枢への経路です。頸動脈洞や大動脈弓部には血圧の変化をキャッチする庄受容体があることはすでに説明したとおりですが、たとえばここで血圧が高いと感じると、その情報が中枢へ向かう神経を通って延髄の孤束核へ伝えられます。孤束核からその情報が血管運動中枢に伝わると、心臓や血管に血圧を下げろという指令が下されるのです。
また、頸洞脈小体も血圧調節で重要な役割を果たしています。ここで血液中の酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度の上昇をキャッチすると、その情報が延髄にある呼吸中枢や循環中枢に伝えられ、ここから肺や心臓に、呼吸、心拍数などを変えろという指令が出され、その結果、血圧も変化するのです。
また、驚きや怒りなどの精神的緊張によっても 血圧 は上がりますが、これは血管運動中枢が大脳の支配を受けているからです。長い間ストレスを受けつづけると高血圧になりやすいことや、 高血圧 の人は ストレス を受けると 血圧 が上がりやすいということがわかっています。
体内でつくられる、 血圧 を上げる 物質
レニン・アンジオテンシン系の作用
一方、体内では血圧を上げるいろいろな物質がつくられています。その中で昇庄に働くレニン・アンジオテンシン系の作用についてです。 レニン は一種のタンパク分解酵素で、主に腎臓の中でつくられています。 レニン が分泌されると、腎臓をはじめとするいろいろな臓器や血中にあるアンジオテンシノーゲン(タンパク質の一種)に働きかけて、 アンジオテンシンⅠがつくられます。 アンジオテンシンⅠ は10個のアミノ酸からできていますが、これにアンジオテンシン変換酵素が働きかけると、2個のアミノ酸がとられて、 アンジオテンシンⅡ に変わります。これが非常に強力な作用のある昇圧物質で、血管に直接働いて血管を収縮させます。
そのほか、 アンジオテンシンⅡ はアルドステロンの分泌を促進することによっても 血圧 を上昇させています。アルドステロンは副腎皮質から分泌されるホルモンで、ナトリウムを体内に貯留する作用をもっています。そのため、アルドステロンが多くなりすぎると、体内にナトリウムがため込まれ、体液量がふえるため、血圧上昇に結びつきます。
アルドステロンの分泌量が増加する「原発性アルドステロン症」になると、血圧が高くなります。
バゾプレッシンの作用
血圧を上げる作用をしているものに、 バゾプレッシン という ホルモン があります。これは下垂体から分泌される 抗利尿ホルモン で、腎臓の中で水の再吸収を促す作用があります。そのため、体内の水分が増加し、循環血液量を増すことにもなるので、血圧上昇につながるのです。
バゾプレッシン にはさらに、細動脈を収縮させて血圧を上げる働きもあり、特に悪性高血圧と呼ばれる病気に深くかかわっています。
アドレナリン と ノルアドナリン の作用
アドレナリン も ノルアドレナリン も副腎髄質から分泌される カテコールアミン と呼ばれる ホルモン で、血管を収縮させて血圧を上げる作用があります。これらの ホルモン は興奮したり、攻撃的な気持ちになるときに多く分泌されます。カーッとすると血圧が上がるのは、この ホルモン の影響です。
ノルアドレナリン は交感神経が興奮するときに交感神経の末端からも分泌されますが、これは血管壁にあるノルアドレナリンの受答体( レセプター)と結合して、血管を収縮させています。血圧の変化とノルアドレナリンの分泌を調べた研究によると、このⅡつの変化は並行していて、血圧の上がるときは ノルアドレナリン の分泌もふえています。しかも血圧の高い人は、正常な人にくらべると ノルアドレナリン の分泌が高いレベルのまま維持されていると報告されています。
エンドセリン の作用
血管壁の最も内側には内皮細胞があると説明しましたが、ここから分泌されている エンドセリン と呼ばれる物質にも血管を収縮させ、血圧を上げる作用のあることが、最近の研究でわかりました。 エンドセリン は、いままでに発見された血管収縮作用のあるどんな物質よりも少ない量で血管を収縮させること、血管収縮のスピードは アンジオテンシンⅡ ほどではないものの、いったん収縮させると長時間持続することなどもわかっています。
また、イスラエルにすむ毒蛇の一種にかまれると、心臓の冠動脈(心臓に酸素と栄養を送り込む動脈)がケイレンを起こすことが知られていますが、 エンドセリン はこの毒蛇の毒の構造とよく似ているほか、さそり毒やはち毒の中にも似たもののあることがわかっています。
プロスタグランディン の作用
プロスタグランディン とは、精液、子宮内膜、甲状腺、副腎髄質など、いろいろな組織や臓器に含まれる、さまぎまな生理作用をもつ脂肪酸のグループのことです。この プロスタグランディン の一種、トロンボキサンA2 も血管の内皮細胞から出て、血管を収縮させる作用があります。
血圧 を下げる働きのある物質
カリクレイン・キニン系の作用
カリクレイン とは、腎臓、膵臓、顎下腺など体内のいろいろなところでつくられる、タンパク質によく似た物質です。これが キニン (ペプチドというアミノ酸の結合したもの)の母体である キニノーゲン (タンパク質の一種)に働きかけると、 ブラディキニン (キニンの一種)ができます。
できた ブラディギニン には血管を拡張させ、血圧を下げる作用があります。また、 ブラディキニン は キニネースⅡ という酵素によって破壊されますが、これは実は、アンジオテンシン変換酵素と同じ物質です。
つまり、 アンジオテンシンⅠ から強力な昇圧物質である アンジオテンシンⅡ ができるときに使われる酵素が、降庄物質を破壊しているわけです。
そのほか、カリクレイン・キニン系はナトリウムの排泄や、後述の プロスタグランディン をつくる過程にも作用し、その面からも血圧を下げるのに役立っています。
心房性ナトリウム利尿ペプチドの作用
これは心房から分泌されるホルモンで、腎臓からのナトリウムの排泄を促す作用があるほか、血管に直接働き、血管を拡張させ、血圧を下げることが知られています。
プロスタグランディン の作用
降圧に関係している プロスタグランディン はE2とI2です。E2は腎臓髄質の中に多くあり、ナトリウムと水の排泄を催したり、血管を拡張させたりすることで、降圧に役立っています。I2は血管壁に多く含まれている プロスタグランディン ですが、腎臓の中では皮質の血管で多くつくられ、血管を拡張させるように働いています。
利尿と昇庄作用をもつジギタリス様物質
ジギタリス は強心剤の原料にもなる毒草で、以前から細胞膜のナトリウム・カリウムATP ace( ナトリウム・カリウムポンプを働かせる酵素)を阻害することがわかっていました。
さらに、最近、この ジギタリス と同じょうな作用のある物質が、私たちの体内にもあることがわかりましたが、この物質には利尿作用と血圧を上げる作用があるらしいのです。たとえば、 ジギタリス様物質 が腎臓の尿細管(水分やミネラルの再吸収をしていい未開の民族は年をとっても高血圧になりません。
また、軽い 高血圧 の人の中には、食塩制限をするだけで血圧が正常に戻る人も少なくありません。
では、なぜ、食塩が 血圧 を上げるのでしょうか。食塩の主成分はナトリウムです。ナトリウムは私たちの体の中では細胞の外にある液体の中に多く含まれ、細胞の中と外の水分のバランス、酸・アルカリのバランスなどを保つ作用をしています。一方、細胞の中の液体にはカリウムが多く含まれていて、やはり細胞の中と外との水分バランスや酸・アルカリのバランスを保つ作用をしています。
しかも、ナトリウムとカリウムのこの関係を推持するために、細胞内にナトリウムが多くなりすぎたときは、細胞膜に備わっているあるしかけが働くようになっています。
このしかけはナトリウム・カリウムポンプと呼ばれていますが、細胞内のナトリウムを外へ出し、かわりに細胞外のカリウムを中に入れるのです。外へ出た不必要なナトリウムは腎臓から排泄されます。
ナトリウムをとりすぎると血圧が上がることはよく知られていますが、すべての人が上がるわけではなく、ナトリウムのとりすぎにより血圧の上がりやすい人とそうでない人がいるのです。
ナトリウムにより血圧の上がりやすい人、たとえば遺伝的に腎臓のナトリウム排泄機能に障害のある人では、過剰に摂取したナトリウムを腎臓から十分排泄できないため、ナトリウムが体内にため込まれ、その結果、血液の水分量がふえて血圧が上がります。
また、平滑筋細胞では、細胞内のナトリウムが増加すると、ナトリウムとカルシウムを交換する第二のポンプの働きでカルシウムも増加しますが、カルシウムは平滑筋細胞を収縮させる作用があるので、カルシウムの細胞内への増加は血管内脛を狭めることになり、血圧が上昇します。さらに、カルシウムは中枢神経に作用したり、血管を収縮させる物質に対して作用を増大させるように働き、血圧を上昇させやすくします。
カリウム や カルシウム を多く摂取すると血圧が下がる
カリウム は ナトリウム との間でお互いの作用を打ち消し合う桔抗作用があります。そのため、 カリウム を多くとることは血圧を下げるのに役立ちます。
カリウムの降庄効果は血圧の正常な人では明らかではありませんが、高血圧の人では確認されています。それは、 カリウム に腎臓での ナトリウム や水分の排泄をふやす働き(特にナトリウム過剰時)があり、血管拡張作用、さらに交感神経系やレニン分泌を抑える作用があるからだと考えられています。
では、カルシウムは血圧の上昇や下降にどのようにかかわっているのでしょうか。
カルシウム は細胞内にたくさん入り込むと 血圧 を上昇させますが、食物として多めに摂取すると血圧を下げるのに役立つ報告があります。
カルシウム と ナトリウム とは括抗関係にあり、腎臓の尿細管にこの二つが同時にあると、互いか再吸収を妨げ合い、尿中へのナトリウムの排泄が多くなるからだと考えられているのです。
このことは、イギリスでの疫学調査の結果からもうかがえます。この調査は、カルシウム を多く含む水を飲んでいる地域の住民と、カルシウムの少ない水を飲んでいる地域の住民の血圧を比較したところ、カルシウムを多く含む水の地域の住民のほうが血圧が低かったというものです。
しかも、心臓病や脳卒中などの病気で死亡する人の割合も少なかったということです。また、 カルシウム の血圧を下げる効果は、 カルシウム 代謝のとき使われる 副甲状腺ホルモン や ビタミンD の作用を通して生じるのだと考、えられています。しかし、カルシウムの摂取皇里と高血圧とは相関関係がないとの調査報告もあり、カルシウムの多い食事をすれば高血圧が必ず予防できるとはいい切れません。しかし、少なくともカルシウムを多くとったほうが 血圧 が上がってしまうということはないようです。